― 世界が違っても、人は温かいものを渡したくなる ―

風邪をひいたとき。
日本では、薬の前に「温かいもの」が出てくることがある。
おかゆに梅干し。
生姜湯。
葛湯。
そして、なぜか「ネギを首に巻くといい」という話まである。
本当に効果があるのか。
科学的には、さまざまな考え方があるのだろう。
それでも、こうした「おばあちゃんの知恵」は、
長いあいだ、日本の家庭に残り続けてきた。
ドラッグストアへ行く前に、
まずは家で温かいものを口にする。
薬だけではなく、
湯気のあるものをゆっくり飲む。
そこには、
「治す」だけではない、
弱った人を気づかう空気があるように思う。
海外にも、似たような風景がある。
フランスでは、
温かいハーブティーに、
はちみつを入れて飲む人がいる。
タイム(Thym)というハーブは、
のどによいと言われ、
家庭で使われることもある。
アメリカでは、
チキンスープが定番だ。
風邪をひいたときに、
温かいスープを作る文化は、
今も多くの家庭に残っている。
中東では、
ミントティーや、
はちみつ入りの温かい飲み物を口にする人もいる。
国は違う。
食べるものも違う。
それでも、
体調を崩した人に、
温かいものを渡したくなる気持ちは、
どこか少し似ている。
日本のドラッグストアには、
強い風邪薬が並んでいる。
けれど、その横には、
葛湯のような、
昔から親しまれてきたものも残っている。
早く治したい気持ち。
ゆっくり休んでほしい気持ち。
その両方が、
同じ場所に並んでいるようにも見える。
本当に効いていたのは、
ネギだったのか、
生姜だったのか。
それは、よく分からない。
けれど、
風邪をひいた夜に、
温かい湯気の向こうに、
誰かがいた記憶は残っている。
おばあちゃんの知恵というより、
おばあちゃんの優しさが、
効いていたのかもしれない。
